今後の複視の症状はどうなりますことやら。
まあ完全に事故前の状態まで神経や筋肉が回復することは期待できないのかもしれません。あとは怪我した膝を腕が慢性の関節痛や関節炎にならないよう生活を工夫することだけです。といっても現実の生活はいつもそうできるわけではありません。
当時はただ必死で痛みに耐え回復するためにリハビリに専念することだけ考え、余計なことは考えないようにしていましたが。回復しないとお先真っ暗でしたね...。
ケガがある程度回復したと入ってもまだこれから苦労はあることでしょう。
両眼タイプ(AR Vision) |
単眼タイプで網膜直接投影(ブラザー社製) |
事故後4、5ヶ月は視野の周囲を見ようとすると、目の奥や周囲で鈍い筋肉痛を感じていたので、眼球を動かすときのツッパリ感や痛みを取るために眼球運動のストレッチを行いました。この運動は今現在も毎日2、3回最低やっています。要領は以下のとおり。
まっすぐ前を向いて、顔はそのままにして眼球だけを動かします。
①.両目で右を3秒間見る、そして前をみる。
②.両目で右斜め上(45度)を3秒間見る、そして前をみる。
③.両目で上を3秒間見る、そして前をみる。
④.両目で左斜め上を3秒間見る、そして前をみる。
⑤.両目で左を3秒間見る、そして前をみる。
⑥.両目で左斜め下を3秒間見る、そして前をみる。
⑦.両目で下を3秒間見る、そして前をみる。
⑧.両目で右斜め下を3秒間見る、そして前をみる。
⑨.両目で右回(時計回り)りに3秒くらい眼球を回す(視線ではなく、眼球の奥からまわすように)、 そして前を見る。
⑩.両目で左回りに3秒くらい眼球を回す、そして前を見る。
上下左右斜めに視線を送って目の動きに偏りが無いようにします。1~8を逆順にたどって1セットとし、これを1日数回やります。
このリハビリは目の筋肉の緊張をほぐし、両眼をスムーズに動かせるようにすることが主です。今後紹介するリハビリの準備体操と考えてください。
2.眼筋の協調コントロールトレーニング
床、壁、天井の直線的な目地などのラインをなぞるように、連続的に目で追う。最初はゆっくり、慣れてきたらスピードを変えて。
1往復を20回、1セットにして数回行う。これを1日3~4回。私の場合は6回から7回ほどやっていました。時々直線的な軌跡ではなく曲線的なものも取り入れる。
あまりやり過ぎないことが肝心です。やりすぎて目に疲れが溜まってしまうと、一時的に悪いときの状態に戻ってしまいます。必ず休憩しながらやります。このトレーニングは半年ほど行いました。今では時々やるくらいに減っています。
今後、複視の回復度合いにあったリハビリ方法を段階的に紹介していきます。
右目がZ軸回りに反時計回りに2度ほどズレ、左目はX軸、Z軸回りに9度くらいズレているということはどの眼筋のバランスが狂っているかを考えてみました。
眼球の運動をつかさどる筋肉は6本(下図)。
眼球を動かす脳神経は3種類らしい。
①動眼神経 - 内直筋・上直筋・下直筋・下斜筋
②滑車神経 - 上斜筋
③外転神経 - 外転筋
各筋肉の作用方向は下図。
これらの図から上下斜筋の伸縮のバランスが崩れ、上斜筋が伸び下斜筋が縮む状態だと右目では反時計回りに、左目は時計回りの回転ズレが起きることになる。更に左目の上直筋が伸び、下直筋が縮んだ状態になると、遠くのものほど上にずれた網膜像になり私の複視の症状と合致する。ただ左目の場合は水平方向に、左から右側に視線を移動しようとすると突然動かなくなったり、ゆっくりとしか視線を移動できなくなることがあるので外直筋と内直筋の協調運動にも問題があるようだ。これは神経麻痺によるものか。事故後、3か月ほどひどい目まいが続きましたが、この「めまい」にも病名が付いているようです。眼球振盪(がんきゅうしんとう)というらしく、「末梢性めまい」の症状が私の症状にぴったり。
| 末梢性めまい | 中枢性めまい |
---|---|---|
めまいの性質 | 回転性 | 浮遊性 |
めまいの程度 | 重度 | 軽度 |
めまいの時間性 | 突発性、周期性 | 持続性 |
めまいと頭位、体位との関係 | あり | なし(例外あり) |
耳鳴、難聴 | あり | なし |
脳神経障害 | なし | あり |
眼振 | 一側方注視眼振、回転性、水平性 | 両側方注視眼振、縱眼振 |
事故から7ヶ月経ち、現在の状況は目を閉じて眼筋を弛緩させた状態でまだ2~3度(1m当たり3cmほど)ズレています。夜中にトイレに起きる時や、早朝に目を覚ましたときは、視野全体に複視の状態が現れ、数十秒から数分経つと左右のズレが徐々に一致していくという症状が現在でも続いています。日中や疲労が溜まっていないときは両眼のズレは気になりませんが、夜や目が疲れてくると複視の状態に逆戻りしてしまいます。つまり根本的な眼球のズレはまだ残ったままということ。事故当時から比べればそのズレは4分の1程度に改善されてきていますが、完全には、事故前の状態まで回復できていません。
はたしてこのズレは生涯残ってしまうのか、これからも続けるリハビリで改善されていくものかどうか、まだわかりません。専門家の意見では回復期間は半年から1年くらいらしい。それ以上になると症状は固定化し後遺症として残ってしまうとのこと。老化して眼の筋力が衰えてきたら改善していた複視の症状にまた老後も苦しめられるのか、という不安が頭をよぎります。
私の体験でわかることは、5~6度の外傷性のズレなら眼球の運動リハビリでかなり改善できるように思われます。10度以上ずれている場合は自然治癒は難しいのではないでしょうか。
そうはいっても数度のズレでも本を読む、字を書く、コンピュータの画面を見る時、また細かい手作業をするとき、手元で数ミリから1cmほどズレることがあるので大問題です。ソファに横になって本を読んだり、テレビを見ることができないだけでもストレスは溜まります。
複視は眼筋を弛緩した状態でズレがなくなっていないと完治とはいえません。弛緩した状態でのズレが残っている間はいくら日中よく見えていても、目が疲れてくると複視の状態に簡単に逆戻りします。こんな状態では、仕事で車を運転することも危険です。 困ったものです。片目で見れば良いかというとズレはなくなっても今度は遠近感がなくなり、帯に短しタスキに...です。
七ヶ月で4分の1にズレが矯正されたことを励みに、どこまで改善できるか、これからもリハビリを続けて経過を記録していきます。予定では5月一杯で完治すると思ってリハビリに励んでいたのですが、どうもまだまだ努力しないといけないようです。
先天的な斜視の方々は私よりも大変だと思います。複視を体験するまで、斜視とは単に黒目が偏っているくらいにしか理解していませんでした...、お恥ずかしい。 ところが物はずれて見えるは立体視はできないはで、大変なことなんだとわかりました。
まず左右のズレをどのように計ったかというと、頭を傾けず真っ直ぐ前方を見つめ、水平・垂直線が左右の目に映る像でどのくらいずれるかを比較。なるべく遠くの建物や視野全体に広がった対象物で大きさのわかっている物の縦横の線を測定基準にしました - そのほうが計測する上で誤差が小さくなると考えたからです。
①病院の前の道路(4車線)の反対側にある二階建てのビルのズレを目測。
水平距離にして20mはなれた2階建てビルが丁度、3階建てに見え、水平線が時計回りに10度ほど回転しているように見えました。
遠くに行くほど縦のズレが比例して増加するのに対し水平線の回転ズレは一定でした。また横方向のズレはほとんどありませんでした。
②立った状態で足元を見て自分の足や床のタイル目地のラインがどう見えるかを観察。
右目で見える像に対する左目のそれは、1.5mの高さから自分の足を見ると縦方向に20cmほどズレて見え、30cm角のタイル目地は横3枚分に対し左端で15cmほど縦方向に、時計回りに回転してみえた。
③手を目の前に伸ばしてどのくらいズレて見えるかを目測。
手と目の距離はおよそ60cmで、右目で見える手が左目では10cmほど縦方向にずれて見えていた。
④病室の回縁(天井と壁の交じわった境界線、長さが3mほど)の傾きを目測。
視野の右端はズレず、左目の像では左端だけ上方向に45cmほどにずれ、右目では逆に10cmほど下がって見えた。
①から④を三角関数を利用して計算すると上図(視野の横方向をX軸、縦方向をY軸、視線の方向をZ軸)のような結果になりました。
この結果からわかることは、右目がZ軸回りに反時計回りに2度ほどズレ、縦横のずれは無視できるほどの値。
一方、左目はX軸、Z軸回りに9度くらいズレていたのです。つまり左目の視線が少し左下方向に下がって斜視の状態になっていたことになります。外見上、黒目の位置がずれて見えるほどではなくても複視になるには十分なズレを起こしていたわけです。
整理すると、私の目は下の図のようになっていたと考えられます。
注)3次元軸のずれる方向は網膜像で見えるズレの方向と逆になることに注意してください。
X軸回りのズレは縦方向に物がダブって見え、Y軸回りのそれは横方向に、Z軸回りでは斜めに傾いて見えるということです。
この結果から目の筋肉がどのような状態になると視野の座標軸が上図のようにズレるかを考えました。
次回に続く...。
私の複視は両眼性でした。複視は二つに分類されるらしい。単眼性の複視と、両眼性の複視。単眼性のそれは、片方の眼を隠して、ひとつの眼で見ても、ものがダブって見え、両眼性は、片方の眼を隠して、単眼で見ると、ひとつに見えるが、両眼で見ると、ものがダブって見える。
両眼性の複視は、左右の眼球の位置がずれて、斜視のような状態になったもの。眼球の位置が横にずれていれば、左右に同じ像が二つ見え、眼球の位置がたてにずれていれば、上下に同じ像が二つ見える。私の場合は縦に少し回転(10度から15度程度)したようなズレかたでした。
事故で頭を打ったときの衝撃で両眼を動かす筋肉とそれを制御する神経系がダメージを受け斜視のような状態になったようです。幸い眼球自体に損傷はなかったので両眼性の複視で済んだのだと思います。ダメージの割合は左目が80%、右目が20%くらい。
症状は座った状態で頭を左側90度に傾けた時だけ正常に見えました。それ以外の状態では物がダブって見えて、右側頭部が下側になったとき、一番ずれかたがひどかったです。骨折で体を自由に動かせず、いろいろな姿勢で頭の位置や角度を変えて複視の状態をチェックできずにいたので、複視の症状の全貌を把握できたのは数ヶ月でした。
事故後2ヶ月ほどは、たいしたリハビリもせずメチコバールというビタミン剤を服用していました。右腕と左膝を骨折していて車椅子状態だっため、そちらの治療がメインで目のほうは自然治癒任せ。もちろん眼科には通院していました。目のリハビリは退院後にインターネットで調べて独自に考えました。今でも実践しています。現在は90%近く回復。ただ寝不足などで眼精疲労がたまると一時的に以前のダブった状態に戻ります。ひどいときは数日、元に戻らないこともあります。疲れが取れると回復しますが。
回復中は、頭の位置、角度によりますが、対象をじっと見ていると下のアニメ画像のようにズレた像が一致しようとするように動いて見えることが頻繁に起きました。
このような変化が見られる場合は特別なリハビリをしなくても4、5週間ほど経つと安定して一致するようになります。それ以外の場合は自分で考えたリハビリ方法を続ける過程で徐々に一致する範囲が増えていき、一致している時間も長くなって安定していくようになりました。
半年ほどかかって、ずれた像が一つに見えるよう、目の動かし方を新たに学習したような感じです。気の遠くなるようなリハビリ量です。
このブログで紹介するリハビリ方法は外科的に眼球の位置を調整しなくても済む比較的軽度のズレで苦しんでいる方にしか参考にならないかもしれません。
寝返りするたびに目が回っていました。入院後半になると、寝ているときは安心して「めまい」を楽しむ余裕もできました。どんなに目が回っても吐き気はなかったので助かりました。ただ「めまい」のせいで歩行のリハビリは大幅に遅れました。
入院中の入浴は週に2回だけ。ちょっと少なすぎますね。まあ集団生活だからしょうがないか。その間、よく洗髪だけしていました。
入院後2週間ほどして朝シャンデビューしようと洗面所へ。
勢いよく頭にシャワーをかけたとたん...、突然めまいが襲ってきてそのまま洗面台にバッタリ...。それから数分身動きがとれない状態が続きました。浴槽の中だったらおぼれていたでしょうね。危ない危ない。車椅子に座って洗面台に寄りかかる状態だったので事なきを得たというわけです。
頭皮に熱刺激が加わっただけで「めまい」が起きるなんて驚き桃の木。それ以来、頭にシャワーをかけるときは勢いよくかけず慎重に髪を少しずつ濡らしていくようにしていました。3回目くらいになると徐々に慣れていって軽いめまいですむようにになりましたが。
生まれてはじめての入院生活はトワイライトゾーン体験のようなものでしょうか。
体験していない人には、ずれて見えるというだけでは一体どんな風に見えているのかわかりにくいでしょう。イメージで説明しましょう。
たとえば食事のときは以下のような光景になります。
食器が二重に見えるだけでなく箸やスプーンを持つ手も二重ですから、手で食器をつかむ動作から箸で食べ物を挟むといった動作までひと苦労で食事を楽しむどころではありません。
歩行時の廊下は傾いて見え、ビックリハウスの中にいるような感覚です。床が傾いて見えるので手すりがないと真っ直ぐ歩くことが難しく、また通路に置かれた物や人とすれ違う際、自分と障害物との距離がよくわからないので手で距離を探りながらやり過ごすか、大きく迂回するように歩いていました。
階段は一段ずれて見え、足で探りながら一段ずつ慎重に昇降しなければなりません。
トイレでは、二重に見える便器に立ち小便をすることが難しい。的が二つに見えるので便器からそれないように注意しなければなりません。大抵は座ったまま用を足していましたが。
私の場合、こんな生活が五ヶ月以上続きました。現在でも視野の一部に複視の症状が残っており、寝不足などで眼が疲れていると以前の状態に戻ってしまうこともあります。
症状が重かった間、テレビを見たり本を読むこともできませんから唯一の娯楽はラジオや音楽を聴くことでした。
普通に見えると思っていたことが実は微妙で繊細な視神経、眼、筋肉等の働きに支えられていたことを思い知らされました。
普通に見えるってことはありがたいことなんですね。